大穢 完全版

2025

『大穢 完全版』は2025年にWIN用として、ADELTAから発売されました。

ADELTAの新作は、古典クローズド・サークルを日本色にアレンジした昭和ホラーミステリー。
前年に前編が発売されたことからも、注目された作品ですね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・
東京は八丈島より先の離島 大江島で行われる、ある女優の三回忌。
探偵社に勤める大崎は、なりすましての代理参列という奇妙な依頼を受ける。
しかし、誰も見たことがないという施主、定刻を過ぎても迎えに来ない船頭、なぜか恐れ、憎しみあう参列者たち。
不吉な島に取り残された十人は、参列者に共通する過去と女優「大江杏」の死の謎を紐解いていく。

<感想>

ADELTA作品は、圧倒的な1枚絵の枚数と、独特な世界観を持っております。
特にサークル前作の『ウウウルトラC』が素晴らしかったことから、個人的には次の作品をずっと待っておりました。
そんなところに出てきたのが、本作ということになります。

なお、本作については、前年の2024年に『大穢 前編』が発売されています。
そのため、次は後編が発売されるものだと思っておりました。
実際には、後編だけの販売はなく、実質的な後編を含んだ完全版だけが発売されました。
完全版の発売に伴い、前編の販売はなくなりましたので、前編を1タイトルとして扱うことはやめ、本作だけを1タイトルとして扱った方が良いのでしょう。

さて、知らない人向けに補足をしておきますと、ADELTAは女性向けの同人サークルであり、主に18禁のBLゲーを制作しております。
したがって、本作も18禁のBLゲーになります。
BLゲーではあるのですが、エロ重視というのではなく、ストーリーやグラフィックが優れていることから、男性でもプレイしやすくなっております。
私は『ウウウルトラC』の持つ唯一無二の世界観に強く興味を抱いたのですが、言い換えると、それだけ一般的ではないということでもあり、万人受けはしないだろうなとは思っていました。
それに対して、本作はミステリーということで、より万人受けしやすい題材となっています。

具体的にはクローズド・サークルを扱ったホラーミステリーということで、これはもう、題材的に好きという人も多いでしょう。
近年は本格的なミステリーを扱うノベルゲーが非常に減っているところにきて、ストーリー性に定評のあるサークルが本格的なクローズドサークルを引っさげてやってきたというだけで、鉄板としての安心感があります。
実際、派手さはあまりないですが、それを補う独特の雰囲気のもと、骨太なミステリーが展開されますので、一般的には高い支持が得られても十分納得できる仕上がりとなっています。

ミドルプライス級の価格であり、同人にしては高めな価格設定ではありますが、ボリュームも十分にありますので、コスパ面でも全く問題はないでしょう。

そのため、今ミステリーのオススメはあるかと聞かれれば、本作の名前が真っ先に出てくるとは思います。

ただ、そのうえで、個人的に思ったこともありまして。
まず、ミステリーというのは、ADVにおいて、王道中の王道なのです。
ケーキでいえば、イチゴのショートケーキのようなものです。
それこそ80年代から、いくつもの名作が生まれてきた分野なのです。
だからこそ、過去の名作との差別化がはかれないと、本作ならではの魅力も生まれてこないのです。
そこがまぁ、その世界観だけで評価しえた『ウウウルトラC』との違いでもあるのでしょう。
本作もストーリーとしては良くできていると思いますが、それ以上に本作ならではの世界観や魅力が生み出せたかとなると、個人的にはそこまでとは思えませんでした。
具体的には、序盤のワクワク感に比べて終盤がそれほどでもないことや、目新しさは特に感じなかったこと、作中ですべての設定等を活かしきったわけではないこと等が挙げられるでしょうか。

また、過去のミステリーADVの場合、何らかのゲーム性を持った作品も多いところ、本作はマルチENDではあるし、ルートにより異なる側面が判明することから、ノベルゲーとしての構造をストーリー内にきちんと昇華できているとは思うものの、他方で、少なくともゲームとして楽しめる構造にはなっておりません。
近年のノベルゲーの大半がゲームとして楽しめる構造を捨てさっているので、同時期の作品と比べるとマイナスになるわけではないですが、過去のゲーム性のあったミステリー作品と比べると、他のプラスアルファが欲しくなってしまいます。

それから、グラフィックですね。
サークルの持ち味である1枚絵の多さは健在です。
しかし、問題は1枚絵以外の部分であり、立ち絵が動かないどころか、立ち絵も表示されず、背景だけのような場面も多々ありました。
ちょっとしたエフェクト等を入れるだけでも印象はかわりうるのですが、ちょっと物足りなさを感じる場面も多かったです。
ゲーム開始時の演出が良かっただけに、むしろその後はガッカリ感が強かったですね。
本作が王道のミステリーということに加え、あまり動きのない場面も多いだけに、この動かないグラフィックと相まって、余計にも物足りなく感じてしまったのでしょう。
端的にいうと、このサークルのグラフィックの方向性と物語の方向性がミスマッチであったということであり、個人的にも引っかかってしまったということですね。

<評価>

ここ最近では珍しくなったタイプの作品ですので、ミステリー作品がプレイしたいって人には、十分オススメの作品といえるでしょうね。
そのため、総合でも良作といえるでしょう。

ただ、例えばBLゲーといわれてプレイを躊躇している人にまでオススメできるような突き抜けた特徴や魅力があるかとなると、そこまでのものはなかったように思います。
少なくとも私は、ちょっとでもBLゲーに抵抗のある人にまで、本作をすすめたいとは思いません。
その辺が、良作ではあるけれど、名作には届かないと思った理由になるでしょうか。

ランク:B(良作)

Last Updated on 2025-08-31 by katan

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