『野々村病院の人々』は1994年にPC98用として、シルキーズから発売されました。
後にサターン初の18禁として移植され売れまくったので、そういう意味でも知名度の高い作品ではないでしょうか。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
悪名高き天才探偵・海原琢磨呂(主人公)が足を骨折して入院した病院で、院長が謎に満ちた死を遂げていた。
事件の薫りに刺激された彼は真相究明へとギブス付きで立ち上がる。
妖艶な院長婦人と不気味な執事。そして愛らしい看護婦たち。
琢磨呂は難解かつ倒錯的な事件を解決へと導くことができるのだろうか…。
<感想>
知っている人には当たり前すぎる話ですが、シルキーズはエルフの別ブランドなので、実質的にはエルフの作品と考えて良いでしょう。
エルフは1993年末に、『河原崎家の一族』を発売しました。
それによって、80年代に一度は登場したものの、その後は日陰へと追いやられたノベル系のADV、マルチストーリー・マルチエンディングのADVに、再び脚光が浴びせられたわけです。
確かに『河原崎家の一族』は元祖ではなかったかもしれませんが、そう思う人が多数いたくらいですからね。
PC98の能力を活かして作りこまれた作品は、やっぱり偉大だったんだと思います。
シルキーズは、翌94年には、このシステムを使用した作品を何本も発売しており、本作はその内の1本になります。
ストーリーは、病院を舞台にした推理モノでした。
当時のエルフの場合、大抵のADVは発売前から信頼できましたからね。
シルキーズブランドの場合は、冒険しすぎて変なのもありましたが、それでも他社の訳のわからんゲームよりはよっぽど楽しめましたし。
となると、システムが同じなら後はお好みでって気もしますが、推理物が好きということを差し引いても本作の出来は良かったと思います。
ストーリー全体も楽しめましたし、主人公をはじめ個性的なキャラも多かったですし。
何より分岐が複雑なのに全く破綻しない作りなんかは、さすがにエルフって感じの作品だったと思います。
およそ欠点らしい欠点がなく、致命的な欠点を減じていく減点法なら高得点もありえますし、良作なのは間違いないのでしょう。
ただ、十分に楽しめた上での話となるのですが、私はこれを面白いし良作だとは思うものの、1度も名作と感じたことがありませんでした。
初期の分岐型ということで1シナリオも短めであり、長編作品が有する重厚さはそこにはありません。
また犯人の動機なども希薄ですし、クリアしたときの充実感がいまいち感じられなかったわけでして。
これだったら一本道でもいいから、ガッツリと骨太な濃いストーリーを用意してもらった方が、もっと楽しめたように思います。
まぁその代わりに一本道の長編にはない、分岐による展開の変化は確かにありました。
でもエルフ的な分岐・展開の変化の楽しさ、例えば目的の定まらない河原崎では選択に身を任せあちこち徘徊することも魅力になっていましたが、そういうのは河原崎の段階で実証済みなんですよね。
なのでそこにプラスアルファがないのであれば、舞台を変えただけの2番煎じでしかありません。
もっと性質が悪いことに、河原崎と違い野々村には事件の解決という、明確な目的が存在しています。
そこに縛られてしまったがために、たとえ多くの選択肢があっても、結局は1本の正解とその他の不正解になってしまっているのです。
だから先に正解にたどり着いてしまうと、全てのルートを見てやろうって意欲が失われてしまうのです。
後発の作品を例に出すのは良くないことなのですが、同年の少し後にSFCで『かまいたちの夜』が発売されています。
かまいたちは事件解決後も様々に展開が変化していくわけで、次も見てみたいって気にさせてくれました。
野々村にはそういう部分が欠けているのです。
もちろん、他に2番煎じと思わせない要素があれば、展開の変化の面で優れていなくても問題はありません。
都合の良いことに本作は推理モノなのですから、事件の推理・組み立てを全てプレイヤーに委ねるのであれば、河原崎とまた全然異なった魅力を引き出すことができたのでしょう。
しかし野々村はあまりそういう部分に秀でていたわけではなく、結局目新しい何かを見つけることはできなかったのです。
他にも、個性的な主人公の存在にしても、これまたある意味いつものエルフの主人公なわけで、本作ならではという域には至ってなかったですし。
あと細かいですがいちいちセーブの確認をするのが、強いられるようで嫌だったかなと。
これは河原崎も一緒なのだけど、河原崎の時は親切に思えたものの、野々村ではより頻度が増えて逆にテンポを損ねて煩わしくなった感じです。
<評価>
つまり本作は、欠点となるような足りない部分もないものの、本作ならではという強烈な特徴もまた乏しかったのです。
90年代前半から半ばにかけてのADVのゲームデザインの歴史は、その多くをエルフが占めてきました。
エルフは作品ごとに少しずつシステムを変えてきたりしたのですが、本作はシルキーズ作品にしてはその部分が大人しかったように思います。
うん、結局はそれなのかな。
そつなく上手く纏めているのだけれど、新鮮さが足りなかったわけで、河原崎から舞台を病院に変え探偵モノにしただけの、無難な作品に思えてしまったということなのでしょう。
そういうわけで、総合でも良作止まりにしておきたいと思います。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-10-01 by katan
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