恋×シンアイ彼女

2015

『恋×シンアイ彼女』は2015年にWIN用として、Us:trackから発売されました。

背景の綺麗な作品でしたね。もっとも今となっては、音楽NTRだのコンセプト詐欺等、話題性の高さの方が目立ちますが。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・國見洸太郎は、御影ヶ丘学園に通う2年生。
文芸部で小説家になることを夢見ながら、活動をしていた。
彼にはどうしても書けないお話がある。
「恋愛小説」
それは彼が幼い頃に経験した、がっかりな初恋のエピソードのせいらしいのだけど……。新しい春。
『桜代学園』、『西学園』、そして洸太郎が通う『御影ヶ丘学園』3つの学園が統合され、新たな出会いが生まれる。
幼い頃に出会い恋をして離ればなれになっていた、姫野星奏。
数年前まで親友だったが、あることをきっかけに口をきかなくなった、新堂彩音。
そして恋愛小説が書けない國見洸太郎。
そんな3人は、なにかの偶然か、教室でも3人隣り合わせて急接近することに。
何も変わらない日常に、恋愛小説のようなお話が舞い込んでくる。

<感想>

例えば恋愛ゲームがあったとして、その中にNTRとかの純愛と異なる要素が含まれていたとします。
様々な要素が含まれ絡み合うことの許された昔とは異なり、今は分離・住み分けをしろという声の方が大きいことから、こういう異物の混入は嫌われ叩かれます。
そうして意外性の失われた作品が増えていく現状が嫌な私としては、処女厨だの萌え豚と呼ばれるような人とは意見が合わないことが多く、異物が含まれることを嫌う人とは逆に立場に立つことが多いです。
勝手な期待をして、自分の望み通りにならないからといって暴れるのは、大人向けのゲームに対するユーザーの反応としては見苦しいものであり、決して褒められたものではありませんしね。
もっとも、上記のような普段の態度は、あくまでも何も限定していない恋愛ゲームに対して、勝手に願望を押し付けようとするユーザーがいる場合の話でしかありません。

私は普段はネタバレとか内容には触れないように書いているのですが、この作品は某通販サイトとかでも普通に内容が書かれてしまっていますし、いろんな意味で話題性も高いので少し説明しますが、本作は攻略制限がありラストを担う、一番のメイン格であるヒロイン星奏が、3度に渡って主人公の前から去って終わりとなります。
つまり、どっちかというと悲恋ものなるわけですね。

もし、単に学園ものに悲恋シナリオが混ざっていて、それがハッピーエンドでないからといって叩かれるのであれば、それは叩いているユーザーの方が馬鹿なのだと述べていたでしょう。
しかし、本作は違うのですよ。
コンセプトとして「王道学園設定」が挙げられ、「極めて王道で恥ずかしいほどのド直球」等と他にも念押しされています。
それでこの内容なわけですからね。
商品の説明も読まずに、或いは書かれていないのに勝手に想像し誤解して、それで違っていたとクレームを付けるのは馬鹿でしかないのですが、本作は商品説明をじっくり読んで、慎重に検討して、これなら自分に合うだろうと判断した真面目なユーザーほど、予約してまで購入するような一番のユーザーほど裏切られるわけで、これは叩かれて当然なのですよ。

私は意外性を求めるタイプではありますが、それは事前に紹介されている設定の範囲内で、尚もこちらの予想を超えるものを入れて欲しいということであり、決して嘘をつけとか詐欺をはたらけということではありません。
もっと付け加えるとするならば、「少年少女たちの」「学生時代にしか感じることの出来ない」「青春ならではのエピソード」を描くと言われているのに、主人公らが成人してからの話をラストに据えるのは、その存在自体が蛇足なのであり、論外とも言えるのでしょう。

まぁ制限された中で如何に意外性を出せるかが腕の見せ所なのでしょうし、事前にこうだと断定したことを翻す形でしか意外性が出せないのは、その時点で三流でしかないのでしょうけどね。
またこのシナリオライターならありうると言われても、それって作品に応じて内容を変えられず、いつも同じような感じになってしまうということですから、このライターは三流だから仕方ないのだという説明にしかならないでしょう。

もし描かれているシナリオは自体は良かったと、自分は楽しめたのだとしても、それはあくまでもその人が楽しめただけの話であり、本来は叩かれるべき作品だという前提は変わらないのです。
だからまぁ、結論として本作が楽しめたにしろ、逆に楽しめなかったにしろ、それ自体は好みの問題もあり、どっちもありなのでしょうが、一番ありえないのは「叩かれる理由が分からない」って意見でしょうね。
特に本作は新ブランドのデビュー作ですし、それだけに事前の説明は大きな判断材料になるわけで、その説明と異なっていたら叩かれて然るべきなのであり、理由が分からないと言われてしまうと、お前何見て買ったんだと疑問を持ってしまいますし。

しかしながら、たとえ異なる内容であっても、有無を言わさず納得してしまうような内容であれば、即ち説得力があったのならば、まだ違ったのかもしれません。

本作は、作品の傾向としては、あまり細かく描写しないタイプになります。
つまり星奏が何を考えて行動したのかとかが、直接的には描かれていないタイプの作品ということですね。
もっとも、直接的には描かれていないだけであり、行間を読むように各ヒロインの行動やセリフを通じて総合的に判断すると、星奏の行動もある程度納得できると思います。
だから行間を読めるような古いユーザーであるならば、楽しめる確率は少し高くなります。

他方で、本作は場面ごとの雰囲気作りや盛り上げも良いですからね。
最近の人気アニメとか見ていると、流れや過程は支離滅裂でも、個々の場面が盛り上がりさえすれば高評価になるようでして。
私には理解しかねるところでもありますが、まぁそれが今の流行というか、最近の若い人なのだなと受け入れた場合には、その観点からは雰囲気作りの上手い本作は、高評価を得られやすいのだろうなと。

問題は、「やや若い人」という微妙なポジションの、でもエロゲユーザーには多そうな人でしょうね。
つまり場面だけの盛り上がりではなく、きちんと流れも重視するのだけど、行間が読めずに過剰なまでに細かい直接的な描写を望む人だと、あまり描写のなされない本作だと理解できず、もの足りなく感じるのでしょう。

まぁこの辺も、本来ならば作品の傾向の違いだけの話でもありまして。
近年のエロゲでは過剰なまでに直接的に描写されないと、あまり理解してもらえないとよく言われますし、現に、そういう過剰な描写がなされたような作品が、即ち私からすればヘタクソにしか見えない文章の作品が、近年は高評価になっていたりします。
私からすれば過剰な描写などない方が良いし、そういう作品の方を高く評価しがちではあります。
だから本作も、別の作品で星奏ルートだけであったならば、つまり描写自体は少なく、今人気を得やすいタイプの作品でないことは変わらないにしても、私個人は、これはこれでありだと思ったでしょう。

しかし、どこまで描写すべきかというのもケースバイケースなのですよ。
本作のように事前情報と異なることをやるのであれば、それだけの説明責任が加重されるのであり、他の部分以上に細かく描写すべきなのでしょう。
それなのに肝心の部分が薄いから、説得力が生まれてこないのです。
違う作品でなら本作のシナリオでもOKなのだけれど、この作品でこのシナリオを使うのであれば、もう少し足す必要があったということですね。

それでもこれ、仮にゲーム機のギャルゲーだったならば、星奏は主人公より仕事を選んで去ったのだねと、もう少し素直に受け入れやすかったかもしれません。
しかし本作の内容だと、これ絶対に他に男いただろ、で、今カレと上手くいかなかったから元カレ主人公の元に戻ってみたけれど、今カレと仲直りできたんで主人公捨てたんだろ~って言われても、むしろそっちの方が説得力あるだろみたいに思えるわけでして。
本作はエロゲなんで、その方がしっくりきますし、もしそこで濃厚なNTRでも描かれていれば、最初のユーザーを盛大に裏切ったことで炎上はするでしょうが、違った方面での説得力は生まれて、違う層には絶大な人気を得られたでしょうに。
結局のところ本作は、コンセプトにも徹しきれず、そこからはみ出るにしてもはみ出しきれず、優等生にも不良にもどっちにもなり切れていない学生のようなものであり、だから本作は中途半端なのでしょう。
覚悟してコンセプトから逸脱するのであれば、徹底してやんないとね。
天啓などと思い付きで行動するから、薄っぺらくなってしまうのでしょう。

そして、こういう少々穿ったような見方になってしまうのも、最後に大人になってからの別れがあるからなんですよね。
主人公の下から去っていくというENDも、それ自体は物語の一つの方向性としてありなのでしょう。
むしろ個人的には結構好きですし。
でもこういうのは繰り返されると、またかよって思いますし、それだけインパクトも薄れていきます。
また学生時代ならば自分の思い通りにならないことも多いので、それだけでも多少の説得力は生まれるのでしょうが、20代後半のいい大人にもなって、もう自分で決断できるはずなのに、それでも説明もなしに去っていったでは、やっぱりいろいろ勘繰りたくなってしまいます。
そういう意味では、同じ別離ENDにするにしても、学生時代という期間内で全て終わらすべきだったのかなと。
社会人になってからのラストエピソードが加わったことで、いろんな意味で蛇足であり、かなり印象が悪くなったように思います。

あ、余談だけど、20代後半ほぼ無職、彼女にも捨てられましたで終わるので、余裕のある人なら何ら問題ないのだけれど、これ、人によってはダメージでかいと思うので、そこは注意が必要ですね。

<評価>

否定的な物言いが増えてしまいましたが、背景は綺麗だしキャラは可愛かったですからね。
わりと楽しくはあったのですよ。
メインたる星奏以外のルートは、特別優れていないにしても十分楽しめましたし。

それに星奏ルートにしても、他のルートとは異質ではありますが、それだけに売り方次第で印象は変わっていたでしょう。
もしゲーム機のギャルゲーで、不器用な男と不器用な女の不器用な恋、運命に翻弄されつつも懸命に足掻き、全力で駆け抜けていった一組の男女の軌跡として、ミドルプライスくらいで星奏ルートだけを発売していたならば、私は間違いなく褒めていたでしょうから。
そういう意味では、本作を褒める人の気持ちも分かるんですよね。

なまじエロゲにしてしまったから中途半端に感じたのだろうし、量を稼ぐために複数のルートにしたから、複数ライターの弊害でルート間の温度差や隔たりが生まれたのだろうし、異質なシナリオの方をメインに据えてしまったから、ストーリー全体の方向性も曖昧になり、それらが積み重なることで作品全体の完成度が下がってしまったのでしょう。
売り方、キャラの占める割合や構成など、それらをちょっと変えれば大分印象も変わっていたと思われるだけに、そう考えると一番の問題は、全体を統括する人の力が及ばなかったことなのかなと。
きちんと現場の統率がなされていて、責任者の意図が全体に浸透していたならば、凄く良い作品にも名作にもなりえた可能性があっただけに、何とも勿体なく思えてしまいますね。

というわけで、基本的には佳作~良作ベースの作品だとは思うものの、何を意図して作ったかが伝わってこないということで、総合では凡作とします。

ランク:D(凡作)


恋×シンアイ彼女
DVDソフト恋×シンアイ彼女

Last Updated on 2024-09-25 by katan

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