『エンジェリーズン ~天使のいいわけ~』は2000年にWIN用として、スピカから発売されました。
早すぎたのか、それとも遅すぎたのか。
オーパーツともいうべき、不可思議なアダルトゲームでした。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
商品紹介・・・
幼なじみで今や我が校のアイドルに想いを寄せる主人公が、残り少ない学園生活で素敵な思い出を作ってゆく。
魔法使いや幽霊、ロボットやうさぎまでもがいる、ハチャメチャな学校環境、そこへ両親が海外に転勤してしまい、学生でありながら一人暮らしという絶好のチャンスが訪れる。
<グラフィック>
アダルトゲームの中には、一般人の理解の範囲を超えるような、ADVの変遷に対する認識を覆させるような、オーパーツのような作品が時々登場することがあります。
そして本作もまた、その中の一つと言えるのでしょう。
本作の最大の特徴は、良い意味でも悪い意味でもグラフィックにあり、2010年以後の作品すらも凌駕する演出と、1990年以前かと思わせるような崩壊したキャラデザとが奇妙に混ざり合い、2000年に発売されたのです。
良い部分から説明すると、まず立ち絵ですね。
クルクル回転する立ち絵が画面中を所狭しと動き回ります。
しかも拡大縮小を伴い、奥行の表現や前後の動きなどもきちんと表現しています。
そこにカメラワークで背景を動かしたり拡大縮小が伴ってくるわけでして。
演出面に関して言うならば、10年後の演出の良いとされる作品よりも上とも言えるでしょう。
加えてデビュー作(同時に遺作でもありますが)ということもあってか、良い意味でアダルトゲームっぽくない構図でもあり、その点でも新鮮さを感じることができます。
これら演出面に関していうならば、本当に最高の作品でした。
しかしながら、致命的にキャラデザ・原画が悪かったのです。
いや何かもういろいろ崩壊しているような、見ているうちにゲシュタルト崩壊していきそうな、不思議な気分にさせてくれる芸術的な絵だったのですよw
しかも解像度の関係か、立ち絵が拡大する場面ではシャギーも目立つし、そんな立ち絵が動き回るものだから、何とも不思議な気持ちになってくるのです。
だから何というか、80年代のアダルトゲームの画像を用いて、2010年代の演出技術で表現しましたってな印象の作品を、2000年にプレイさせられたという、古いような新しいような、奇妙と言うか珍妙な体験を味わえるのです。
それにしても、良くこの時期にこの作品が出てきたなと。
立ち絵を使用した演出は、ゼロ年代後半以降は増えていく傾向にあり、現在に至っています。
PC98の時代は、立ち絵を動かしまくるというのは少ないかもだけど、その代わりにフェイスウィンドウを画面中で動かしたり、背景オブジェなどを動かすなどの手法は多かったわけでして。
時代的な流行により多少の違いはあるものの、PC98までの時代とゼロ年代後半以降は、一枚絵以外の部分での演出も重視する傾向があります。
しかしWIN以降の90年代後半からゼロ年代前半にかけては、OSが変わったことや、恋愛ゲーの隆盛に伴う一枚絵重視ないし一枚絵偏重の傾向も重なり、一枚絵の質にばかりこだわり、それ以外の演出面は非常に軽視された時期でした。
だから一枚絵の質にこだわるブランドは多数あったものの、原画の質を無視してでも立ち絵の演出をこだわろうとする本作のような存在は、存在自体が極めて稀だったと言えるでしょう。
例えばアージュなんかにしても、まずは一枚絵の質の良さが先にあり、そこから少しずつ立ち絵の演出の向上を図っていったわけで、2000年のこの時期にはまだまだでしたからね。
ユーザーにしてもそうで、PC98の頃のユーザーや、あるいは逆に最近のユーザーなら、この立ち絵の表現は凄いと、その長所を素直に認める人も結構いると思います。
しかしあの当時だと、原画の崩れというマイナス部分にばかり、どうしても注目が集まってしまったと思います。
だから本作は早すぎた存在でもあり、遅すぎた存在でもあるのです。
<感想>
それとストーリーですね。
あらすじだけを見ると、典型的な学園恋愛ものに見えます。
幼馴染というベタな存在から、魔女に幽霊にロボにウサギ娘と実に多彩です。
この辺の非現実なキャラ設定は最近では少なくなりましたが、90年代後半の恋愛ゲーではわりと多く見られました。
だからここまでなら、よくあるタイプの恋愛ゲーっぽいのだけれど、ここもまた曲者でして。
一言で表現するのなら、皆バッドエンドと言えるような、鬱なストーリーばかりなのです。
しかもパロディなどを含みつつも、学園王道ものを風刺するような棘も含んだ内容であり、当時としては非常に尖った作品と言えるのでしょう。
本作が発売されたのは2000年の4月であり、時期的には99年の『Kanon』と2000年の『AIR』の間の作品です。
泣きゲーという言葉が注目されるようになってきた時期ではありますが、泣きゲーから派生した鬱ゲーが流行り出すのは、もう少し後になります。
つまり本作のような鬱ゲーが受け入れられる土台が、まだユーザーの方にできていなかった時期の作品なのです。
まぁ泣きとは異なる非常に鬱な作品というのも、実は90年代にも幾つかあるのですけどね。
金払って何で鬱な気分にならなきゃいけないんだよという意見も見ましたし、確かにそれも一理あるよなと気持ちは十分わかるのですが、結果として鬱ゲー自体は存在していても、ユーザーに受け入れてもらえず、どれもこれも埋もれてしまった印象でして。
そもそもジャンルというのものは、いくら該当するゲームがあっても、それを認識し支持するユーザーが出て来ないと、ジャンルとして定着しないですからね。
しかも本作は、鬱ゲーであるだけでなく、アンチ萌えゲー的な内容でもありますから。
尖ったものを好むPC98時代のユーザーなら、この作品を知っていれば楽しめたでしょう。
逆に恋愛ゲーのテンプレに飽きてきた現在の一部のユーザーにも、こういう作品は好まれるのでしょう。
しかしこの時期の新しくPCゲーを始めた恋愛ゲーを求める層には、このアンチ萌えゲー的な内容は受け入れてもらえないと思います。
だからストーリーの面でも、早すぎた存在であり、同時に遅すぎた存在でもあるのでしょう。
ストーリーに関しては、世間で人気があるような鬱ゲーは、私には大半がご都合主義のぬるい作品ばかりに見えてしまいます。
本当にリアリティもある鬱ゲーって、意外と評判が良くなかったりしますし。
本作は妙なリアリティのある鬱さなので、エロゲユーザーには一般受けしないだろうなと思いつつも、これはこれで良いストーリーだったと思います。
ただ、一本のストーリーだけを見れば優れているものの、フラグ管理が適当なので、その点で破綻することがあり、全体の整合性も含めるとストーリーとして褒めきれないのが、何とも厄介でもありました。
<ゲームデザイン>
ゲームジャンルはノベルゲームとなるのでしょうが、一般的な選択肢は出てきません。
最初にその日のスケジュールから見る時間帯を選び、そこでのイベントを見るだけです。
安易に選択肢に頼るのではなく、その作品ごとにアレンジしようとする姿勢は、私は好きです。
しかし残念なことに、これが面白さにつながるわけでもなく、単に攻略を難しくしただけでもありまして。
この点でも、賛否分かれてしまいそうでした。
<評価>
可愛い女の子と最高のイベントCGがあれば十分、王道恋愛もの万歳という人には、本作は無用の存在なのでしょう。
他方で、他にはない尖った作品をプレイしたい人ならば、本作はきっと楽しめると思います。
特にアダルトゲームにおける演出面に興味のある人ならば、本作は外せない作品と言えるでしょう。
総合では、こういう作品は本当に難しいです。
特徴や長所だけならば名作・傑作級の内容も有しているのですが、それらを全て帳消しにしてしまうくらいの短所も複数ありますからね。
良い意味でも悪い意味でも、とにかく尖った作品でした。
総合では長所と短所を相殺し、名作に近い良作としておきますが、人によっては駄作にもなりうるし、人によっては名作にもなりうるという、そんな作品なのだと思いますね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2025-01-27 by katan