アダルトゲームの歴史を振り返るシリーズの第2弾ということで、今回は1984年及び1985年の一部を扱う。
1984年のアダルトゲームは、確認できたところで23本ある。
多少の増減はあるかもしれないが、いずれにしろ前年同様に20本強が発売されている。
<1984年 総論>
23本の内訳を見てみると、前年と異なり、ゲームジャンルにおいて流行に変化が生じている。
すなわち、前年はそれほど多くなかったADVの数が飛躍的に増え、発売作品の半数に及んだのである。
<コマンド入力式ADV>
アダルトゲームにおいて、1984年はADVの数が増えた年なのだが、ここで一般ADVについて少し見てみると、一般的にコマンド選択式ADVの元祖とされる『オホーツクに消ゆ』が発売されたのが、84年の末のことである。
したがって、当然ながら84年の段階でコマンド選択式ADVが普及しているわけがなく、アダルトゲームにおけるADVとは、すなわちコマンド入力式のADVを指していた。
コマンド入力式ADVとは、文字通り直接コマンドをキーボードから入力するタイプのゲームを指す。
例えば、「ドア」「アケル」といったように、主人公≒プレイヤーの立場から、次に採る行動や対象となる目的物を直接打ち込むのである。
そうすると、打ち込んだコマンドの内容に応じてコンピューターから返答があるので、その返答に対してプレイヤーが更にコマンドを打ち込み、そうした行動を繰り返すことでゲームが進行するのだ。
ADVの元祖といわれる『Adventure』や『ZORK』は、もともとTRPGにおける会話やプレイヤー間のやりとりをコンピューターゲーム化したものと言われており、プレイヤーとコンピューターとの言葉のラリーやキャッチボールのような構造こそが、ADVの本質的な要素と言えるのである。
ところで、こちらが何か入力すると返答があり、話が進展するということは、制作側が事前に、プレイヤーの打つコマンドに対する回答をテキストとして用意していることが前提となる。
プレイヤーの入力したコマンド全てに対して何かしらの返答があるのがゲームとして理想なのだが、現実には、制作側がプレイヤーの行動の全てを事前に予想できるものではない。
正解のコマンドを打ち込まなければ先に進めないのはもちろんのこと、制作側が十分に対応するテキストを用意をしていないと会話すら成り立たないわけで、プレイヤーとしては会話を成り立たせ先に進むための正解を探すことが目的となり、そんな暗号の解読のような言葉探しというゲーム性を有していたのが、最初期のADVと呼ばれるジャンルだったのである。
今の総ノベルゲー時代のユーザーの場合、ADVと言われてイメージするのもノベルゲーなのだろう。
そのこと自体を否定するわけではない。
しかし、今と昔とではADVと言っても、その意味するところが異なるということだけは、少なくとも念頭に置いておく必要があるのだろう。
以上のように、この頃のADVは、暗号解読のような正解探しこそが主であり、ストーリーはプレイヤーを飽きさせないための従的な立場とも言えた。
クリアが困難で、ENDまでたどりつけないケースも多く、作品の評価についても、ストーリーの良し悪し以前に、コマンド入力部分での是非が問われたケースが多かったように思う。
<コマンド入力式とアダルトゲーム>
アダルトゲームの場合は、一般のADVと比べると、ゲーム部分が簡素なものが多かった。
しかしながら、チャンピオンソフト(現在のアリスソフト)の『慶子ちゃんの秘密』は本格的な作りであり、探索モノの初期の代表作と呼べるだろう。
また、コマンドの入力は「ななこ語」で行わなければならないという独自性を発揮した『ななこSOS』や、歴史上の人物である「道鏡」を主人公にした『道鏡』など、個性の強いゲームも出始め、コマンド入力式のADVが定着した時期であった。
こうしたコマンド入力式のADVの中でも、この年に異彩を放っていたのが『EMMY』及び『EMMY2』である。
具体的には、人工無能を用いた女の子との会話を繰り返す作品だった。
このEMMYシリーズに関しては、今風に言えばシミュレーターという側面があるものの、いわゆるSLGとも異なるということで、ETC(その他)と分類されることもよくある。
確かに、今の平均的なADVともSLGとも異なることから、ETCとしたくなる気持ちも分かる。
しかしながら、EMMYシリーズにおけるゲームの主目的はコマンドの入力による会話にあり、『ZORK』を始め最初期のコマンド入力式ADVはTRPGにおける会話などをコンピューターゲーム化した側面が強いことから、同シリーズは、ある意味最も古典的なADVをアダルトゲーム的に再構成したものと言えよう。
<その他、ゲームデザイン>
ゲームデザインにおける大きな変化は以上の点くらいなもので、光栄の『団地妻の誘惑』(1983)の後継作たる『オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか?』など、基本的には前年の流れを踏襲しつつ進化させた年という印象が強いように思う。
<1984年 ストーリー>
ストーリーにおけるジャンルも、基本的には前年から変わりないと言える。
女子寮を舞台にした『BRABRA』や、ロリという点ではPSKの『ALICE』もあった。
1つ特色を挙げるならば、『ななこSOS』や『ウイングマン』といった漫画・アニメを原作とした作品が比較的多くゲーム化されたのもこの年である。
この時期は、CSKが映画を題材にした作品や劇画風の作品を多数発売していた。
その他の作品も含めると、今のように二次オタをターゲットにした作品というよりも、お金のあるオッサンをターゲットにしたと思われる作品が多数あることが、今とは異なる大きな特徴といえよう。
なお、上記の点とも関連するのだが、注意すべき点として、安易に当時のオタクの流行や漫画やアニメの流行とアダルトゲームの動向を結びつけてはならないということである。
例えばジャンプが150円だった時代に、PCは50万円以上もしており、非常に高価で二次オタでも持っていない人の方が大多数という時代だった。
PCを持っているのは別の目的で購入した人が大半であり、絶対数が少ない上に二次オタも兼ねている割合は更に減るわけで、作り手が二次オタを意識したとは考えられない。
実際、85年までは熟女ものや炉利ものが多いが、それらは主に熟女ものはCSKが、炉利ものはPSKが製作しており、これらのブランドがエロゲを作らなくなっていった86年からは、熟女ものや炉利ものは激減している。
つまり他のブランドはほとんど製作していないわけで、続くブランドが無い以上、ブームだったとは考えられない。
作り手であるブランドが好きなものを作った結果、たまたまこの時期に熟女ものや路利ものが増え、それらのブランドが作らなくなったことで作品が減ったに過ぎないと考えるのが自然であろう。
特にPSKの製作・販売形式は、今の同人作品に近いものがあり、アダルトゲームにおける炉利ブームのような影響力を見出すのは、慎重な検討が要求されるべきであるし、個人的には否定的な立場である。
<1985年 総論>
84年はそのくらいにして、ここからは85年を少し見ていく。
まずゲームジャンルで見てみると、発売された15本の中の10本以上がADVということで、非常にADVの比率が高くなっている。
中でも『アステカ』、『今日子NO1』、『イエローレモン』、『天使たちの午後』、『ナナちゃんのスター誕生』、『フェアリーズレジデンス』といったように、コマンド入力式のADVが最も多くなっている。
この傾向自体は前年同様といえよう。
主流は何かという観点からは、やはりコマンド入力式ADVとなるのだが、他方で、ゲームジャンルにおいて、この年に最も注目すべき点となると、それはやはりコマンド選択式ADVの登場なのだろう。
<コマンド選択式の登場と、軽井沢誘拐案内>
1984年末に発売された一般作の『オホーツクに消ゆ』(ENIX)は、「みる」「きく」など入力式ADVで頻繁に使用されたコマンドを整理し、汎用メニューとしてあらかじめ画面に表示させ、それを選択することでゲームが進行する。
後に、10年以上もADVで主流となったジャンルの誕生である。
さて、85年に発売されたADVの中には『軽井沢誘拐案内』があり、これは『ポートピア連続殺人事件』『オホーツクに消ゆ』に続く、堀井雄二氏が制作したADVの第三弾になる。
『オホーツクに消ゆ』までは一般モノなので、ここでは対象外なのだが、『軽井沢誘拐案内』にはヌードとかもありアダルトな要素が含まれていることから、一応アダルトゲーム扱いすべきなのだろう。
ちなみに、『軽井沢誘拐案内』にはアダルトな要素があったからこそ、ポートピアやオホーツクのようにゲーム機に移植できなかったと言える。
ところで、当時というか80年代のADV市場においては、ENIXの作品抜きには絶対語れない程に、大きなウェイトを占めていた。
その年のENIXのADVの代表作は、ADV全体における最高傑作と言っても、決して過言ではなかったくらいだ。
『軽井沢誘拐案内』は、そのENIXからの発売であり、同時に堀井氏の最後のADVとなる。
個人的にはオホーツク派であるものの、知り合いの中には軽井沢派も多く、アダルト・一般関係なしに80年代のベストADVを募っても、多くの人が軽井沢に票を投じることが容易に想像できる。
つまり、その年のアニメのナンバー1を決める場で、全盛期のジブリ映画を挙げるみたいな、少し卑怯な感じすらするのが『軽井沢誘拐案内』なのである。
今では最先端のゲームより大幅に遅れをとっているアダルトゲームであるが、この時は『軽井沢誘拐案内』こそが、アダルトゲームこそが、最先端のゲームであった。
現在では最先端のゲームとアダルトゲームの技術的格差は年々広がる一方である。
黄金期の定義の仕方にもよるが、全ゲームにおいて、アダルトゲームの技術的水準が相対的に最も高かった時期を黄金期とするならば、『軽井沢誘拐案内』のあった85年こそが黄金期と呼べるのかもしれない。
<コマンド選択式における二つの流れ>
コマンド選択式ADVは、事前にコマンドが画面に表示されていることから、コマンド入力式ADVと異なり、何を入力すべきか分からないという問題は生じない。
基本的に、用意されたコマンドを選択するという作業の繰り返しだからである。
そうすると、入力すべき言葉が分からなくて詰まるという煩わしさがなくなった反面、言葉探しという暗号解読のようなコマンド入力式における最大のゲーム性も失われてしまうことになる。
そこで一般ゲーでは、ゲーム性の代わりにストーリー性を求める動きも出てくるのだが、ここでは関係ない話なので割愛する。
ただ、ここで大事なのは、同じコマンド選択式ADVの中にも、大きく分けて2つの異なる流れが生じたということである。
一つは、単にコマンド入力式をコマンド選択式に置き換えただけという系統の作品であり、それらがゲーム性を追求するのに対し、もう一つは、ストーリー性を求める系統の作品であり、これはコマンド入力式の置換ではなく、選択した内容によってダイレクトに進行するノベルゲームに近い構造へと変化していくのである。
ADV史においては、この両者はしばらく並存するのだが、年を経るごとに次第に後者のノベルに近い構造のコマンド選択式ADVが多数を占めるようになっていく。
後者のコマンド選択式の多くは、いわゆる総当りとして揶揄されやすい構造であることから、たぶん多くの人が後者の方に馴染みがあるように思うのだが、細かいところについては、またその時になったらしたいと思う。
かように、ストーリー性を求める動きが考えられる一方で、コマンド入力式的な構造を堅持しゲーム性を維持しようとする動きもあり、前述のようにラリー構造のような会話の楽しみ方は残っているものの、選択式にした以上どうしても暗号解読的な楽しみは失われてしまう。
そこで失われた分は、異なるゲーム性で補おうという発想もありえるわけで、ちょっとした画面クリックやミニゲームを併用したり、部分的にコマンド入力要素を組み込む作品が出てくることになる。
前述の『軽井沢誘拐案内』は、堀井氏が作るだけあってストーリーも優れているのでややこしいのだが、上記の2つの流れで言えばゲーム性も重視した作品にも属するのだろう。
随所に様々な工夫がなされ、というか如何に飽きさせないで楽しめるようにするか、その葛藤が見て取れる。
その1つの例として、後半ではRPGのようにマップを移動して戦闘も行うことになる。
しかも単独戦闘ではなくパーティ戦闘だったので、実はドラクエに先駆けた堀井氏としては初のパーティ戦闘だったのである。
ここで1つ補足しておくと、ファミコン等ゲーム機のコマンド選択式ADVでは、十字キーをコマンドの上に移動させて決定ボタンを押すことで進行する。
他方で、PC98以降の多くのコマンド選択式ADVでは、マウスをコマンドの上に移動させて、クリックすることになる。
つまり、移動とクリックという2段階のアクションを要するのである。
他方で、マウスオペレーションが標準でなかったPC88の頃は、コマンド選択式ADVも必ずキーボードのテンキーに対応していた。
すなわち、一つ一つのコマンドに対して数字が割り当てられ、その数字ボタンを押すだけで全てが進行するのだ。
したがって、1段階のアクションで済むことから、操作が非常に楽なのである。
2段階操作と1段階操作の違いは、一回きりの動作なら大した問題でもないのだが、何時間も繰り返し行われる動作だけに、この操作性の良し悪しはゲームを楽しめるか否かに大きく影響するように思う。
特に今更コマンド選択式はだるいと感じる人ほど、このキーボード操作の恩恵は大きく感じるのではないだろうか。
残念なことに、後の時代になるほどテンキーに対応した作品が減ってしまっており、ある意味、コマンド選択式ADVにおける操作性・システムは、年が経つごとに退化していったとも言えるのである。
<エニックスの功績、総括>
いずれにしろ、ここでアダルトゲームの世界に、初めてコマンド選択式ADV及びRPG的な要素を含んだゲームが登場したことになる。
ちなみに、『オホーツクに消ゆ』からの流れの関係で、先に『軽井沢誘拐案内』を例に説明したが、ENIXはこの年、『軽井沢誘拐案内』よりも先に『エルドラド伝奇』や『TOKYOナンパストリート』というコマンド選択式のゲームを出している。
同じコマンド選択式という言葉でも、細かい部分が皆異なっている辺りがENIXの凄さでもあるのだが、何にせよアダルトゲームにおけるコマンド選択式の導入という点で、ENIXが業界をリードしていたといえよう。
『TOKYOナンパストリート』に関しては、これはSLGだろという見解も強いと思う。
街を徘徊し女の子をナンパしてあわよくば・・・って内容のゲームで、お金等の管理やランダム性の部分を重視すればSLGとなるのだろう。
逆に、プレイにおけるメインを占めるナンパ部分はコマンド選択でなされることや、結局はテキストや映像を楽しむゲームであるという主目的を重視すればADVと見えるのだろう。
まぁ中間的なシステムであることに間違いないわけで、ADV+SLGってのが一番相応しいのだろうが。
ということで、アダルトゲームにおけるコマンド選択式ADVの登場という大きな転換点とも言える年なのだが、何でもそうなのだけれど、これで市場の情勢が一気に全て変わるということはありえない。
特に当時のアダルトゲームの多くは、一般ゲーよりも遅れている部分があったので、一般ゲーでコマンド選択式が普及し始めても、アダルトゲーム市場においっては、しばらくはコマンド入力式も並存していくという状況だったのである。
Last Updated on 2026-01-25 by katan


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