屋上の百合霊さん

2012

『屋上の百合霊さん』は2012年にWIN用として、Liar Softから発売されました。

タイトル通り百合に特化した、群像劇に近い作品になります。

<概要>

ふたりの百合霊に出会ったことから、主人公の結奈は、百合カップル成立へ向けて奔走することになります。

もちろん、結奈自身の物語もあるのですが、他方で、たくさんの百合カップル成立の物語であり、それぞれが自身の物語でもあることから、群像劇に近いような構造になっています。

<感想>

女の子たちの恋物語、百合物語が一杯詰め込まれた、おもちゃ箱の、いや宝石箱のような作品でした。

基本的な流れとしては、学校内にカップルになりきれない、互いに気になっていても中々距離の縮まらない女の子たちがいて、結奈はそのふたりの背中を押してあげる役割を担うことになります。
それぞれのカップルの話は結奈の視点から離れますので、群像劇に近い構図、或いはオムニバスになりそうな幾つかの話を、結奈と百合霊さんたちが1つに纏めた作品となります。

個々の感想は省略しちゃいますが、どれも楽しかったですね。
シリアスになりすぎず楽しさもあり、ある程度の作品内での期間を経ることで結奈の成長物語としても楽しめ、百合としての基本を押さえつつも必ずしも恋愛一辺倒に偏らなかったのが、百合特化にもかかわらず飽きさせない要因だったのでしょう。
まぁ私の場合はとにかく主人公の結奈が好きだったので、結奈だけでも満足なのですけれどね。

ただ、エロ度はかなり薄いです。
レズと百合は異なるし、百合は精神的なものこそ一番大事だと思うので、薄くても構わないとも思います。
むしろガチにねっとり絡まれると、どん引きしてしまいます。
いや、レズはレズで好きなんですけどね。
レズと百合は根本的に似て否なるものだと思いますし、レズ描写を濃くしてしまうと、えてして百合としての部分が弱くなる傾向が強いですから。
本末転倒になっては意味がないですしね。
だから濃厚な絡みは要らないのですが、せっかくアダルトゲームなのですから、全裸立ち絵で羞恥っぽい要素を混ぜてみたり、レズとは異なる絡まない形でのエロの工夫は、もう少しできたのかなと。

まぁ一番大事な精神的つながりの部分がしっかりしているので、この点は些細な問題でしかないですけどね。
レズを伴わないエロをしっかり描けていたら傑作認定だっただけに、少し勿体ないなというところでしょうか。

そのため、個人的には大した問題でもなく楽しめたのですが、百合の上位版をレズと考えたり、両者を混同しているようなハードなHを求める人には、少し物足りない作品となるでしょう。
これはあくまでも百合ゲーであってレズゲーではないということで、レズを求める人には向いていない作品とは言えます。

かように百合ゲーとしても満足したのですが、これだけだったら他の部分との兼ね合いで良作止まりだったかもしれません。
楽しくはあったけれど、百合の要素だけで、他の作品をハッキリ上回るというほどでもなかったですから。

むしろ本作で良いなと思ったのは、登場人物間のつながりにありました。
本作には最近のノベルゲーに比べて多くのキャラが登場し、そのキャラたちが様々な面でつながっていきます。

恋愛ゲーが増え始めた頃というのは、セカイ系が増え始めた時期とも重なります。
90年代後半辺りから主人公とヒロインの関係だけに焦点が当てられ、他のキャラとの関係がぞんざいに扱われるようになっていきました。
それを反省したのか近年では、少しずつ主人公と選ばれたヒロインの2者以外の、同じ立場のキャラ同士の横のつながりを見せる作品もまた増えてきました。

本作は、そうした横のつながりだけでなく、先輩後輩の関係であるとか、縦のつながりもしっかり描かれているわけでして。
社会には横も縦もつながりがあるはずなのですが、そういう部分が今世紀に入ってからの恋愛ゲー、ひいてはアダルトゲーム、そして今日のADVでは希薄になっていますからね。
この点を大事に描いた作品は少なく、そうであるが故に他の百合ゲーにはないプラスアルファを感じることができ、結果として私の中でも1つ異なる存在となれたのです。
私は本作を名作と考えますが、その一番の決め手はこの部分だったりします。

<ゲームデザイン>

ゲームジャンルは、基本的にはノベル系のADVとなります。
もっとも、進行方法が特殊で、まず画面にカレンダーが表示され、イベントのある部分にはマークが表示されます。
そのマークを選択することで、そのイベントを見ていくことになります。

単一の物語でなく、複数の物語が同時平行で進行しますし、年月の重みを感じさせる観点からも、こういう工夫自体は良かったと思います。

ただ、工夫する姿勢自体は好ましいのですが、戻るのが煩わしかったりして、操作性全般には難もありました。
普通に読ませてくれた方が楽だったと考えた人もいるでしょう。
つまり広義でのゲームデザインは良かったのですが、狭義のゲーム性の部分で少し問題があったということですね。
私はこういうアレンジには好意的な立場ですが、それでも改良の余地はあったなと思います。

<グラフィック・サウンド>

Pegさんの絵が、とにかく気に入りました。
もっといろんなゲームで見てみたいものです。
ただ、上記のようにエロは薄いので、百合でない作品の場合には、エロの改善が必要になってくるでしょうけれど。

不満があるとすれば、音声でしょうか。
声優さんは良い仕事をしているのですが、今どき珍しいパートボイスなので、物足りなく感じてしまいます。
私は必ずしもフルボイスにこだわらないものの、過去の百合ゲーの名作には声優が頑張ったという作品も多いだけに、相対的に見劣りしかねません。
できればフルボイスにして欲しかったです。

もっとも、主題歌やBGMが最高に雰囲気に合っていて、日常シーンでもあの曲が流れるだけでも雰囲気に浸れてしまいます。
そのため、音声・サウンドのトータルではプラマイゼロってところでしょうか。

<評価>

シナリオは何時間以上、CGは何枚以上、当然フルボイスとか、そういう尺度で考えると少し物足りない作品でもあり、発売時にして既に数年前の作品のような古さもありました。
そのような客観的に量ではかれる部分が弱いために点は伸び悩みましたが、それでも内容的には、百合特化ゲーとしては最高峰の作品の1つであり、プレイして本当に良かったと思える作品でしたね。

まずは百合好きにオススメの作品ではあるものの、上記のように一番の特徴は縦横のキャラ同士のつながりにあります。
したがって、方向性としてはエヴァ以前のオタク層に向いた作品だと思いますので、個人的にはPC98時代の作品を好むような古いベテランユーザーにこそプレイしてみてもらいたい作品ですね。

ランク:A-(名作)


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Last Updated on 2024-11-27 by katan

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